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フィルターの話

 コーヒーをたてるのに最もよく使われている器具は「カリタ式」の紙フィルターだろう.コーヒー豆を粉にひいて入れる.熱湯を加えると,液は意外な早さで濾過されて,下の容器に落ちる.「コーノ式」というのもある.紙の形状がカリタ式と少し違って円錐形で,湯の流れがシンプルで,落ちる速度はさらに速い.
 こんな実験?をしたことがある.コーヒー粉をまず水に入れる.しばらく放置してから,紙フィルターで濾過する.
 この実験はうまく行かなかった.フィルターが目づまりを起こしてしまって,濾過された水が落ちて来ないのである.理由は想像できるけれど,あえて書きません.とにかく,液体を濾過するという操作は,簡単に見えるけれど,じつはけっこう微妙な条件に左右されるものだ,というのが私の「経験則」である.

 溶液から微粒子を除去するのに,ミリポアというフィルターを使う.穴のサイズが小さくて,バクテリアは通過できない.だからミリポアを通せば微生物を除去することもできる.
 元の溶液が,さまざまな微粒子を含んでいる場合,この操作はうまく行かないことがある.フィルターの目が小さすぎて,すぐ目づまりを起こしてしまうのだ.だから溶液の状態によっては,まず目の粗いフィルター(プレフィルターと言う)を通す.それによって溶液中の微粒子をできるだけ除去する.そのうえでミリポアを通すと,目づまりを起こしにくい.こういう「2段構え」で困難を回避する.

 さて,
 福島原発では,たまりにたまっている汚染水を浄化して還流させるという試みが,あまり成功してないらしい.たいへん重要なことだろうと思うけれど,例によってマスコミはほとんど報道してくれない.
 という事情もあって,細部をよく知らないのだけれど,わずか数時間でフィルターを交換せざるを得なくなったらしい.プレフィルターを通さずにミリポアにかけるようなことをしたのか,それとももっと別の理由だったのかは定かでない.

 化学と物理学とは何が違うか? ある説(?)によると,単純な理論に基づいて,緻密な実験をするのが化学.緻密な理論に基づいて,単純な実験をするのが物理学,なのだそうだ.化学屋は手を働かせる.物理屋は頭を働かせる.
 何度も書くけれど,液体を濾過するという操作は,けっこう微妙な条件に左右されるものだ.これは「頭」よりも「手」の世界なのだ.理論よりもヤマカンとか器用さとかが重要になる.物理屋よりは化学屋の能力が求められる.

 福島原発で汚染水の処理を指示している人たちは,たぶん物理屋さんなのだろうと,ふと想像してしまった.
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コメント 8

shira

 ん〜、確かに原子力は物理屋の範疇ですよね。
by shira (2011-06-28 20:08) 

Ladybird

 nice!とコメ,ありがとうございます.
 物理屋さんからブーイングが聞こえて来そうな議論になってしまいました.ふと思いついたことを書いただけなので,この説にあまり固執するつもりはありません.
 ただ今回のことは,どのように予定していたのか.なぜ予定通りに行かなかったのか,そのあたりの分析を,ぜひ発表して欲しいものです.
 その発表が,またウソ,という可能性もあるか...
by Ladybird (2011-06-28 20:37) 

tetsu

初めまして。記事拝読しました。難解な物理、化学の話の両方を身近に分かりやすく解説されていて勉強になりました。化学屋、物理屋とはっきり分けられない人々もたくさんいると思いますが、とにかくうまくいってもらいたいものです。確かに、放射能の元素濃度(ppm)を使用(公開していないだけ?)しないで、ベクレルだけで整理して浄化しているのは、素人には隔靴掻痒の感はなはだしいと思います。優秀な物理屋さんは。
by tetsu (2011-06-29 21:28) 

Ladybird

 はじめまして.コメントありがとうございます.ブログのほうも拝見しました.たいへん充実したページで,圧倒されました.

> 化学屋、物理屋とはっきり分けられない人々も

 本当ですね.私は基本が生物屋なので,そのあたりの事情をあまり知りません.

> 元素濃度(ppm)を使用(公開していないだけ?)しないで、ベクレルだけで整理して浄化しているのは、素人には隔靴掻痒

 なるほど.
 私はそれこそ素人で,印象だけの話になりますが,何となく頭でっかちというか,実践的でないというか,プロらしからぬ失敗だな,と思った次第です.現地の状況をよく知らないので,単なる感想です.
by Ladybird (2011-06-30 20:44) 

meisinn

そもそも、「そういう対応をしなけりゃならん事故はおきない」(少なくとも俺の目の黒いうちは)
 が前提になってるから、
あわてて用意したものがすぐ使えなくなる・・・という状況じゃないでしょうか。

「トレビーノ」が、「きたない水」から「きれいな水」を作るのに何層ものフィルターがありますが、

実際のところ、物理的な目詰まりで交換しなきゃならんのか、他に原因があって交換しなきゃならんのか・・・。
by meisinn (2011-07-02 15:35) 

Ladybird

 おそらく,かなり初歩的というか,「お粗末」とでも言うか,そういうレベルのミスだったのでは,というふうに憶測しています.

 トレビーノって,浄水器ですか.東レの製品だからトレビーノ? 小林製薬なみのネーミングですね.フィルターにもいろんな種類のがあるので,何層かにするのは,その意味でも正解でしょうね.

> 「そういう対応をしなけりゃならん事故はおきない」

 「起きて欲しくない」と言うべきところを,「起きるはずはない」にスリ替えてしまう.このように,「希望」を「確信」にスリ替えるのは,日本の官僚の得意ワザで,太平洋戦争では,この得意ワザが活用されて,たくさんの日本人が犠牲になりました.誰も反省してないのか,日本人には学習能力が欠落しているのか.今回の福島原発の問題でも,同じような姿勢が見えますね.
by Ladybird (2011-07-02 17:58) 

meisinn

緊急冷却をするのに「海水」を使ってるから、
高温で塩分濃度があがって、フィルター内で結晶・・ なんていう、
「メーカーの想定外」があったりして・・・?

「日本は神の国だから、最後には神風が吹いて戦争に勝つ」
こういう「神話」を、本当に「戦争を起こした側の人」が信じてたのかどうかですね。
「負けるはずがない戦争の、敗戦後 なんか考える必要はない」と思ってたにしては、
戦後のドサクサでちゃっかり儲けた財界人が多すぎる。

「竹槍でB29を落とす」とか「バケツの水で焼夷弾を消す」とか信じてた人、というのが「原発は安上がり」と信じてた人に相当するんだと思いますね。
by meisinn (2011-07-09 22:18) 

Ladybird

> 「メーカーの想定外」
 なるほど.ありうる話です.
 米国やフランスの原発は海の近くではなく,川の近くに建てられている.

> 本当に「戦争を起こした側の人」が信じてたのか
 政治家は真実には関心がなかったのかも.昔も今も政治家はみんな他人の顔色うかがいばかりしている.

> 竹槍でB29を
 国民も,軍と教師とマスコミの大合唱にずるずると引きずられてしまった.今は「節電」とか「原発は安上がり」というようなキャンペーンですか.
by Ladybird (2011-07-10 01:52) 

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