半減期,のつづき
前回の続きです.
半減期とは,まあそのようなものだけど,いくつか注意すべき事がある.
まず,「物理学的」な半減期について.
ある物質が放射線を出した結果,その物質の量が減ると言っても,それが物語のすべてではない.放射線を出して,その物質は別の物質に変わる.この後者が,これまた放射線を出すこともある.となると今度は,この物質の半減期を考えねばならない.
次に,「生物学的」な半減期はどうか.体内に取り込まれた放射性物質の量は,代謝によって指数的に減るという話についてである.
これについては2つのことを指摘しておこう.
第1に,指数関数では,直線的に減る場合と比べて,その物質の量は速やかに減少する.確かにそうだけれども,その減った状態がずっと持続する.ゼロになるまでには,長い時間がかかる.これも指数関数の特徴である.
少量であってもゼロではない.そういう状態が長く続けば,細胞が損傷を受ける確率はそのぶん増加する.だから生体内でのできごとについては,放射線の量が多い少ないというだけでは片付けられない側面があるように思う.
第2に,物質の種類によっては,特定の器官や組織に集積する.その場合,通常の代謝活動から想像されるよりも,半減期はかなり長くなるかもしれない.または,代謝活動で指数的に減って行くというモデルそのものが成立しないこともありうる.さらに言うならば,放射活性が短期間しか持続しない場合でも,蓄積される場所によっては影響は大きい.
たとえばヨウ素は甲状腺に取り込まれる.そして細胞内に貯えられ,やがて甲状腺ホルモンとして血液中に放出される.放射性のヨウ素も,生体は同じように処理する.貯えている間,甲状腺の細胞は(特に細胞の核は)至近距離からずっと放射線を浴びることになる.
話のついでに...
放射性ヨウ素による被害を防ぐため,海藻を食べると良いという意見がある.海藻にはヨウ素(ふつうは非放射性)が多く含まれるので,たくさん食べておけば,あとで放射性ヨウ素が入って来ても,体はもうヨウ素をあまり取り込まないだろう,と考えられる.だから,この議論は,いちおう合理的である.
一方,すでに放射性ヨウ素を取り込んでしまった人が海藻を食べた場合,海藻のヨウ素が,先客である放射性ヨウ素を追い出すことに貢献するかどうかは,おそらく議論の分れるところだろう.たぶん動物実験なども行なわれていると思うが,私にはその方面の知識がない.直観的には,たとえ事後的であっても,ヨウ素をたくさん食べることは,放射性ヨウ素を追い出すのに役立つのではないかという気がする.
話をもとへ.
ストロンチウムは化学的性質がカルシウムに似ていて,カルシウムと同様に骨に蓄えられると言われる.骨は外側は硬いけれど,その中心部は骨髄といって,柔らかい組織である.骨髄では細胞が分裂して血液,つまり赤血球や白血球などを造っている.特に子どもの骨髄では細胞分裂が活発である.そういう場所の近くにストロンチウムが居座って,長期にわたり放射線を出し続けたら,どういうことになるかは十分に想像できる.活発に分裂している細胞は,そうでない細胞よりも放射線の影響を受け易いということも知っておいた方が良い.
放射線を被曝した人の間で見られる甲状腺ガンや白血病が起る仕組みとは,おそらく上記のようなことだろう.国営放送は「半減期」を根拠とした楽観的な見通しを垂れ流し続けているけれど,それは極めて根拠薄弱だと言うしかない.
半減期とは,まあそのようなものだけど,いくつか注意すべき事がある.
まず,「物理学的」な半減期について.
ある物質が放射線を出した結果,その物質の量が減ると言っても,それが物語のすべてではない.放射線を出して,その物質は別の物質に変わる.この後者が,これまた放射線を出すこともある.となると今度は,この物質の半減期を考えねばならない.
次に,「生物学的」な半減期はどうか.体内に取り込まれた放射性物質の量は,代謝によって指数的に減るという話についてである.
これについては2つのことを指摘しておこう.
第1に,指数関数では,直線的に減る場合と比べて,その物質の量は速やかに減少する.確かにそうだけれども,その減った状態がずっと持続する.ゼロになるまでには,長い時間がかかる.これも指数関数の特徴である.
少量であってもゼロではない.そういう状態が長く続けば,細胞が損傷を受ける確率はそのぶん増加する.だから生体内でのできごとについては,放射線の量が多い少ないというだけでは片付けられない側面があるように思う.
第2に,物質の種類によっては,特定の器官や組織に集積する.その場合,通常の代謝活動から想像されるよりも,半減期はかなり長くなるかもしれない.または,代謝活動で指数的に減って行くというモデルそのものが成立しないこともありうる.さらに言うならば,放射活性が短期間しか持続しない場合でも,蓄積される場所によっては影響は大きい.
たとえばヨウ素は甲状腺に取り込まれる.そして細胞内に貯えられ,やがて甲状腺ホルモンとして血液中に放出される.放射性のヨウ素も,生体は同じように処理する.貯えている間,甲状腺の細胞は(特に細胞の核は)至近距離からずっと放射線を浴びることになる.
話のついでに...
放射性ヨウ素による被害を防ぐため,海藻を食べると良いという意見がある.海藻にはヨウ素(ふつうは非放射性)が多く含まれるので,たくさん食べておけば,あとで放射性ヨウ素が入って来ても,体はもうヨウ素をあまり取り込まないだろう,と考えられる.だから,この議論は,いちおう合理的である.
一方,すでに放射性ヨウ素を取り込んでしまった人が海藻を食べた場合,海藻のヨウ素が,先客である放射性ヨウ素を追い出すことに貢献するかどうかは,おそらく議論の分れるところだろう.たぶん動物実験なども行なわれていると思うが,私にはその方面の知識がない.直観的には,たとえ事後的であっても,ヨウ素をたくさん食べることは,放射性ヨウ素を追い出すのに役立つのではないかという気がする.
話をもとへ.
ストロンチウムは化学的性質がカルシウムに似ていて,カルシウムと同様に骨に蓄えられると言われる.骨は外側は硬いけれど,その中心部は骨髄といって,柔らかい組織である.骨髄では細胞が分裂して血液,つまり赤血球や白血球などを造っている.特に子どもの骨髄では細胞分裂が活発である.そういう場所の近くにストロンチウムが居座って,長期にわたり放射線を出し続けたら,どういうことになるかは十分に想像できる.活発に分裂している細胞は,そうでない細胞よりも放射線の影響を受け易いということも知っておいた方が良い.
放射線を被曝した人の間で見られる甲状腺ガンや白血病が起る仕組みとは,おそらく上記のようなことだろう.国営放送は「半減期」を根拠とした楽観的な見通しを垂れ流し続けているけれど,それは極めて根拠薄弱だと言うしかない.
2011-06-13 15:56
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うわートラバ送っておきながらコメ受け付けないとは失礼致しました。
あちらのブログのコメ設定変えてきました。
(アメブロは裏ブログに使っておりまして、
いままで軽い話題しか扱ってなかったんですけれど
ちょっと流れであちらに書いちゃった)
放射性ヨウ素に関しては被曝4時間以内にヨウ素剤をのめば
効果があるという資料を先日読みました。
ストロンチウムの生物学的半減期は資料によって違うようですが、
数十年からそれ以上の単位なので、一生残ると考えてよさそうです。
by えあしゃ (2011-06-15 08:50)
shira様,nice!ありがとうございます.
えあしゃ様,コメありがとうございます.
>あちらのブログのコメ設定変えてきました
すみません.アメーバの登録をすれば良いのですが,すでに登録したものがありすぎて,IDやパスワードがごちゃごちゃになっています.「整理」ということの苦手な人なので,登録をためらっておりました.
>被曝4時間以内
つまり放射性ヨウ素を吸入または経口摂取してから4時間以内という意味でしょうか.もっと後でも効果はありそうな気がするのですが,やはりダメということかも.
ストロンチウムあなどりがたし,ですね.
by Ladybird (2011-06-15 09:34)
このへんが素人に難しいところで、
「EM菌が放射性物質を吸収する」とかいう話が出回ったりしてるのを
「そりゃ、人間が吸収するぐらいだから、EM菌だって吸収するだろう」と聞き流すんですが、
土中にある放射性物質が、バクテリアの作用で代謝の中で「拡散」したら、
それだけ濃度が下る・・・?
「半減」がさらに「半減」しても1/4ですから、 拡散しかないんでしょうかね。
「宇宙戦艦ヤマト」のコスモクリーナーDは、「放射能」を除去する機械ですが、
「何」を除去してるんだろう・・・ (フィクションに言ってもしかたないけど)
by meisinn (2011-07-02 17:37)
コメありがとうございます.
> EMが放射性物質を吸収する
ヒマワリも菜の花も吸収するし,それで問題が片付くなら原子力をおおいに推進すべし.
> 拡散しかないんでしょうかね。
深海に捨てる,地中深く埋める,10万年閉じ込める.
> 「何」を除去してる
ホコリを除去しているんでしょう.単なる掃除機.
除去したぶんは掃除機の中にたまる.たまった放射能をどうするか・・・
by Ladybird (2011-07-03 03:10)
久しぶりのコメントです。時の流れの速いこと!
さて,興味深い記事のTB戴きありがとうございました。実は私の方にも少し考察した記事があったので,それをお返しさせていただきました。
御記事との比較で申し上げますと,2点,興味深いことがあります。
1.個別の原子の放射能は半減期で半減しますが,生体内濃縮がピークになるのは半減期の何倍もあとになることがあり得る。
つまり,これは御記事にあるように,指数関数の特徴(初めは急激に減るが,それ以上はなかなか減らない,ゼロになるには無限の時間がかかる)が大いに関係していると思われます。その間,せっせと体内に取り入れた生体は,減った分といえどもどんどん集積していくわけですね。
2.動物の場合は御記事にもあるようにすでに満杯となれば不要として排出するようですが,植物はそうではなく,際限なく吸収するみたいです。しかも飽和状態にはまだまだほど遠いレベルなのだそうです。
その植物を摂取した動物は多くの内部被曝をしてしまうので怖いことです。
by アルバイシンの丘 (2012-02-26 11:48)
アルバイシンの丘様,コメとトラバありがとうございます.
トラバ元の記事およびそれにリンクしている動画を興味深く拝見しました.
> 個別の原子の放射能は半減期で半減しますが,生体内濃縮がピークになるのは半減期の何倍もあとになることがあり得る。
確かにこれは指数関数の特性(いつまで経ってもゼロにならない)が関係しているでしょうね.
> 植物はそうではなく,際限なく吸収するみたいです。しかも飽和状態にはまだまだほど遠い
植物は動物と違ってウンコもオシッコもしないので,排泄や排出をになう機能としては気孔からの蒸散だけです.そのため,葉とか種子果実など,いずれ本体から切り離されるべきパーツに不要物質を蓄積することで,排泄機能を代行させることになります.そういうパーツがしばしば人間の食べ物となるわけです.
by Ladybird (2012-02-27 14:50)
>いずれ本体から切り離されるべきパーツに不要物質を蓄積することで,排泄機能を代行させる
なるほど!これまた大変勉強になりました!
by アルバイシンの丘 (2012-02-27 20:42)