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フィルムバッジ

 この言葉を久々に聞いた.今朝のNHK「あさいち」である.福島原発事故の発生以後,この言葉が大マスコミから発せられたのは,私の知る範囲では初めてだ.

 写真フィルムを現像,焼き付けなどのプロセスで処理するのは,昔は唯一の選択肢であった.写真に関するこういう技術は,今やもう過去のものとなった.だからフィルムバッジも今はもう使われてないのだろうと思っていた.実際マスコミで報道される原発作業員もフィルムバッジではなくて「線量計」を身につけているらしい.しかしフィルムバッジは,昔は放射線関係の作業をする人には必須のアイテムだった.

 フィルムバッジに期待されていた機能は,被爆線量(正確には,外部被曝の線量)をモニターすることだ.写真フィルムが放射線で感光することを利用した簡単な仕組みである.男性は胸部に,女性は腹部に,このバッジをつける.一定期間の放射線作業のあと,バッジの中のフィルムを現像して,その期間内の被曝線量を推定する.それらを記帳し,累積の線量が一定の値に達したら,その人はもうその年は放射線作業をしてはいけない.

 それだけの機能である.だから小型軽量の線量計が利用できるなら,フィルムバッジの機能はその線量計で代用できる.線量計のほうが手軽で,多分もっと正確だろう.ただし線量計は1個が数万円はするのに対し,フィルムバッジは多分ずっと廉価である.

 NHKの「あさいち」では,福島の子どもにフィルムバッジを付けさせることが提案されていたらしい(よく見てない).これは名案だと思う.フィルムバッジなら子ども全員に配布できる.現像や被爆線量の推定は国なり県なりが主導して実施すれば良い.

 放射線は見えないし音も匂いもない.汚染地域で怖いのは,住民が次第に慣れてしまって,被曝予防の手をつい抜いてしまうことだ.実際に数値として出てくれば,警戒心も持続するだろう.

 ただしフィルムバッジが教えてくれるものは外部被曝の量である.現在そして今後さらに重要になる内部被曝については,フィルムバッジは単なる指標以上のものを与えない.その点については,もっと高価な「線量計」でも同じことだ.

 内部被曝を計るには,身体から発せられる線量を全て捉えるホールボディカウンターという高価な機械があるらしい.しかし内部被曝で重要とされるベータ線の場合は,体内の線源から発せられた放射線が,外部に出て来ない場合もあるだろう.つまりホールボディカウンターといえども,内部被曝をすべて計れるわけではなく,むしろ最も重要なタイプの内部被曝の可能性を見逃しているのだろうと思う.

 私は放射線について特に詳しいわけではない.素人である.よくわからないなりに,今のところ,以上のように理解している.
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コメント 8

Ladybird

 shira様,nice!をありがとうございます.
by Ladybird (2011-06-07 12:11) 

Ladybird

 「踊るマハラニ」さん,トラバありがとうございます.さっそくページを拝見させて頂きました.このブログと問題意識がよく似ているのを知り,心づよく感じました.
by Ladybird (2011-06-08 22:17) 

meisinn

そういえば、
キュリー夫妻が「放射性元素」を発見した時のキッカケが、
「フィルムの感光」でした。

キュリー夫人自身、研究にうちこんだ結果、被ばくによる健康被害を受けたんだと思いますが、
そっちの研究が始まるのは、そういう人がたくさん出てから・・ですねー。
by meisinn (2011-06-08 22:45) 

Ladybird

 meisinnさん,こんにちは.
 改めてウィキでキュリー夫人の項を見てみました.スゴい人ですね.ひたすら脱帽.

 ウィキによると,ラジウムの発見に至る研究過程よりも,のち第一次大戦のときX線撮影のため「チューブにラドンをつめる作業」をしていて被曝したのが,健康被害の原因だったそうです.しかし被曝が原因で亡くなった研究者も多かったのでないでしょうか.
 生物体への影響は,ショウジョウバエを使ったマラーの研究が有名.人体への影響についての疫学的な研究は,広島の原爆以後でしょう.

 放射線生物学,放射線医学,と呼ばれるこの分野.じつは私はあまり関心がなかったので,今さらながら不勉強を痛感しています.
by Ladybird (2011-06-09 07:17) 

Ladybird

 京都大学の小出裕章先生
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=wdLwA0rTQyk
によると,福島で子どもたちに持たせようとしているのはTLD(熱ルミネッセンス線量計)か,またはガラスバッジだろう,とのこと.やはりフィルムバッジは今はもう過去のものかもしれません.
by Ladybird (2011-06-16 10:38) 

Ladybird

 ただTLD等もガンマ線は検出するが,ベータ線は感じてくれないし,内部被曝については無力である.だからTLD等でモニターされる線量は,あくまで目安に過ぎないと.

 まあ,しかし目安であっても,持たせるべきだと私は思います.放射線作業者と同様,被曝の可能性のある場所に子どもを遊ばせるわけだから,個人単位で線量をモニターすることは必要でしょう.線量計なしに放射線作業をすることが,どれほど危険な行為であるかが,もっと認識されねばならないと思います.
by Ladybird (2011-06-16 10:45) 

ayu15

そういうの知りませんでした。東電が用意してせめてこどもだけでも全員に配給したらと思えます。
by ayu15 (2011-06-16 11:50) 

Ladybird

 そうですね.
 フィルムバッジにしてもTLDにしても,全員に配布することは可能だと思います.ただ,被爆線量がデジタル表示されたりはしません.そのため月1回ぐらいは回収して,被爆線量を推定し,リセットして返却するという作業が必要です.そういうサービスを公的機関なり東電なりに実施して欲しいものです.
by Ladybird (2011-06-16 17:22) 

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