晩発性障害

　放射線の人体への影響について，日本科学者会議のホームページ：
http://www.jsa.gr.jp/
にある「科学者の眼，放射線被曝問題について」という記事から，沢田昭二先生による解説を紹介しています．

　と言いつつ前回は私自身が全く消化不良の「紹介」になってしまった．しかしメゲずに紹介を続けます．今回の話題は「晩発性障害」．
　4月20日の記事で「基本概念」として説明した通り，晩発性とは被曝から数年以後に発症するもの．被爆後まもなく発症する「急性症状」に対置される．後者が「確定的」であるのに対し前者は「確率的」である．
　急性症状：　確定的
　晩発性障害：　確率的

　確率的ということは，被曝しても必ずしも発症しない．しかし被曝しない場合に比べ，より高い頻度で発症する．
　いま，ある人が癌を発病したとする．その癌の原因は，放射線を被曝したからかもしれないが，そうでないかもしれない．つまり原因と結果の関係（因果関係）が明快に断定できない．だから「被曝によって発癌した」のだと認定されにくい．これに政治がからむと，なおさら認定されない．

　少し脱線します．認定されないので，それは「なかった」ことにされる可能性がある．スリーマイル島やチェルノブイリで，原発事故が原因で癌で死んだ人はいないというような議論をどこかで読んだけれど，それは「因果関係が証明された人はいない」という意味だろう．
　このように個人レベルでは，因果関係はまず証明できない．しかし集団レベルでは，つまり統計・疫学的に見れば，被曝した人は被曝しなかった人よりも，たとえば発癌率が高いというふうな仕方で，影響を確認できる．それが「確率的」という意味だ．

　話をもとへ．
　ここで沢田先生が例示している元データは，
>　広島大学原爆放射線医科学研究所の広島県居住の被爆者の悪性新生物による死亡率を広島県民と比較した論文「昭和43～47 年における広島県内居住被爆者の死因別死亡統計」
だそうです．悪性新生物とは癌のこと（知ってるネ）．新しい生物ではなくて，新しく生じたモノという意味（だと思うけど）．
　で，それは次のようなデータです．

爆心地から
　の距離　　<1km　1 - 1.5 km　1.5 - 2 km　2 - 6 km　被曝なし
被曝した
　線量（Sv)　　3.88　　　2.24　　　1.56　　　0.85　　　0
癌による
　死亡率（%)　0.504　　0.454　　 0.347　　0.374　　 0.186

　つまり，「被曝なし」であっても0.186%の人は癌で亡くなっている訳です．
　上の表の2行目（被曝した線量）を横軸 (x) に，3行目（癌による死亡率）をタテ軸 (y) にとってグラフを描くと，直線に乗っているような乗ってないような，ちょっと微妙なグラフになる．強引に回帰直線を計算すると：
　y = 0.117 x + 0.186
というような直線になる．細かいことを言うと「x = 0 のとき y = 0.186」という条件のもとでの回帰直線です．

　とにかく，この直線の傾きは 0.117 である．しかし沢田先生はこの数値を採用していない．理由は，私の想像ですが，回帰直線の「傾き」は末端の数値に大きく影響されて，しばしば不合理な数値になるので，それを避けたかったのかもしれない．

　で，どういう数値を採用したかというと，1km未満については，
　　(0.504 – 0.186) / 3.88 = 0.082
という「傾き」になる．また，2〜6 km については，
　　(0.374 – 0.186) / 0.85 = 0.22
という「傾き」になる．この2つの数値の間をとって，つまり足して2で割って，
　　(0.082 + 0.22) / 2 = 0.15
という値を採用している．

　つまり癌による死亡率（％）は1シーベルトごとに 0.15ずつ増加する，という結論になる．
　この関係が，もっと低い線量に対しても成り立つと仮定すれば，
「たとえば 0.1シーベルトを被曝すれば，癌による死亡率は，被曝してない場合に比べ 0.015% だけ高くなる」
ということになる．同様に，
「10 mSv = 0.01 Sv の被曝では 0.0015 %の死亡増，すなわち100 万人が10 mSv 被曝すると悪性新生物によって死亡する人が約15 人増える」
という計算になります．

　沢田氏が述べていることは，これでほぼ全部だけど，少し補足したいことがあるので，次回この続きを書きます．

コメント 2

　shira様，nice!をありがとうございます．
by Ladybird (2011-05-13 17:14) 

　ayu15様，nice!をありがとうございます．
by Ladybird (2011-05-23 20:46)