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アオマツムシ考

 今夏は殺人的といえるほどの暑さだった.このところリアルの生活に忙殺されていたが,気がつくと周囲はすっかり秋の気配.わがやの庭ではオカメコオロギとカマドコオロギが競い合って鳴いている.
 そう言えば,と気付いたことがある.アオマツムシである.昔あれほど喧噪をきわめていたアオマツムシが,今年はどうも元気がない.たしか昨年もそのように感じた.

 アオマツムシは外来種である.1960年代から話題にのぼるようになった.都市の街路樹に住み着き,分布を拡げて行った.高知県でも1980年頃から耳につくようになった.他のコオロギ類を圧倒する大音量で,このままアオマツムシが分布拡大したらどうなることかと気を揉んだ.しかし,ここ数年,そのアオマツムシに変化が見られる.いなくなった訳ではないが,特別に目立つ存在ではなくなった.何がアオマツムシの快進撃を止めたのかは判らない.しかし,同じような現象は他にもある.

 先日,高知市でアメリカシロヒトリによる街路樹の被害が,本当に久しぶりに話題になった.この蛾(ガ)は戦後すぐ,米軍とともに日本に上陸,各地ですさまじい食害をひき起こした.しかしその後は,旺盛な繁殖力も次第に影をひそめ,話題にのぼることも少なくなっていた.今年のアメリカシロヒトリ被害が一過性のものか,それとも本種が再び勢力を盛り返す前兆なのかは,しばらく注目する必要がある.

 松食い虫(マツノザイセンチュウ)は1970年代に話題になった外来生物である.マツは日本文化の中で重要な位置を占めることから,このままではマツが全滅する,日本文化の象徴が消える,とセンセーショナルに喧伝された.マツノザイセンチュウを木から木に運んでいるのがマツノマダラカミキリだということで,このカミキリムシを殺すための薬剤散布が,日本中で広く行なわれた.その甲斐あって,かどうかは知らないが,昨今は松枯れが問題になることは少なくなった.

 アオマツムシ,アメリカシロヒトリ,松食い虫.いずれも,このまま放置すればどうなるかというほどの勢いで日本中を席巻した.しかし今はそれほど問題になっていない.もちろんシロヒトリや松食い虫に関しては,防除のため様々な作業が行われた.それがカタストロフィックな結果を招かなかった理由だと言われれば,そうかもしれない.ただ,ここで重要なことは,いずれの虫も消滅してしまった訳ではないことだ.かなりの数が今も生息している.にもかかわらず昔のような,人々を戦慄せしめるような猛烈な増殖をしなくなったのである.
 暴力的,敵対的な「よそ者」であったものが,日本の風土にとけ込み,いわば組み込まれて,より共存的な生態系の一員となって存続しているわけだ.そういう事が起こったらしいというのが,この3つの事例の共通点である.

 こういう事がなぜ可能なのだろう.理由はそれぞれに研究されているだろう.しかし一般的にこういう現象があるという事実は,生態学に対する1つの挑戦であるように思う.こういう現象を一般論として生態学的に理解できるようになったとき,たとえばシカによる「食害」問題について,もっと今より賢明な対処ができるようになるのでないだろうか.
 人は自然を作れない.我々は生態系について,ほんのわずかしか知っていない.そういう謙虚さを忘れたとき,ほかならぬ生態学が自然破壊の元凶となる可能性もある.生物多様性について何もかも判ったような言説を流布する学者やマスコミに対し,日本国民は健全な警戒心をもたねばならない.
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shira

 うんと覚めた見方をすれば、ある地域の生態系が外来種によって激しく変化したとしても、最終的にはその場にあった形に(在来種の全滅という形も含めて)落ち着くわけです。
 でも、この記事の視点はとても新鮮です。言われてみれば、危機だ危機だと騒がれつつも、何となくそんなに悪くない形で落ち着いているような感じはします。
by shira (2010-09-18 23:12) 

Ladybird

 shira様,nice!とコメントありがとうございます.

>ある地域の生態系が外来種によって激しく変化したとしても、最終的にはその場にあった形に(在来種の全滅という形も含めて)落ち着くわけです。

 そうなんです.それに外来種を駆逐しようとしても,駆逐しきれるものではありません.「自然」に手を入れて管理しようと試みることは,あまり良い方法と思えないのです.
by Ladybird (2010-09-19 03:33) 

Ladybird

 RU2FTAB様,nice!をありがとうございます.
by Ladybird (2010-09-22 04:11) 

kimera25

おひさしぶりです。
「ブログ浦戸湾」にあった
みごとなお魚、感激しました。

この頃になって
生物多様系の記事が出てくるようになりましたが
外来種の問題は
本来の生態系を変えてしまいますよね。
ウチの近くには
鎌倉から北上した
台湾リスが棲息しています。
北鎌倉から戸塚に北進したものです。

タンポポなんかも国産種が押されています。
生態系の意味で
外来種は本来駆除しなければならないと考えます。

♪松原遠く♪
海岸線に松が無くなり
我が家の前の国道の松も枯れています。
箱根駅伝の時戸塚中継所の先のセンターラインに
埋めてある松は大磯あたりまで何本も枯れています。
赤松が空松になっています。

by kimera25 (2010-09-23 23:17) 

Ladybird

kimera25様
 いつもブログを拝見しています.
 コメントありがとうございます.外来種の問題は,多少とも自然を知る人たちが昔から問題視してきたにもかかわらず,一般には軽く見られて来ました.今起きている問題は,その結果でしょう.生態系は「すでに変わってしまった」のであり,今頃になって駆除などと言っても遅いし,大抵は不可能であるように思います.
 ブログ「浦戸湾」でご紹介したアカメフォーラムですが,じつはフォーラムに引き続きアカメ釣り大会が行なわれます.こんな大物を釣る楽しみが,これからもずっと持続するように,そのために自然を大切にしようというのが,フォーラムの主旨です.
by Ladybird (2010-09-24 00:48) 

Ladybird

 ayu15様,お久しぶり.
 nice!をありがとうございます.
by Ladybird (2010-09-27 10:22) 

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