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秘密保護法インタビュー (3)

 中谷元氏へのインタビュー.2013年12月にブログ「浦戸湾」
http://blog.livedoor.jp/uradowan/archives/51834659.html
に掲載した記事を,こちらに転載しています

2013年12月26日
秘密保護法インタビュー (3)
 中谷元氏へのインタビュー.高知新聞の記事「問う,特定秘密保護法案」を転載しています.2013年12月22日の朝刊です.記事は今回で終りです.

 なお高知新聞は,中谷氏の地元である高知県の,代表的な地方紙です.地元高知県での取材ということで,中谷さんも心なしかリラックスしているように見えます.


(以下転載)

【法成立の過程 「推進役は警察官僚」】

- 中谷さんが、秘密保護法制の研究に携わったのはいつからですか。

 「8年くらい前ですね。情報に関する国の体制をつくらねばと、自民党にインテリジェンスの機能強化に関するプロジェクトチーム(PT)ができ、秘密保持とインテリジェンス機能の強化を検討してきました」

- PTの始まりは、どういう形で?

 「内閣情報調査室(内調)の人とか限定メンバーで。外務大臣を経験した町村(信孝)さんが情報機能が足りてない、と。(最初10人くらいの)メンバーは、なかなか会に出て来ない。町村さんと私はできるだけ出ていました」

- その後は?

 「民主党の菅政権の時に情報保護の有識者会議ができ、報告書が野田内閣の時にできました。法案化の動きは野田内閣の時に始まったんですね」

- PTが頻繁になってきたのは?

 「国会でNSC(国家安全保障会議)法案と秘密保護法案をやらなきゃという時ですね。秘密保護法が検討され、原案なるものが持ち込まれました。(今年9月3日に)パブリックコメントの募集をかけましたが、その1カ月くらい前です」

- 原案はどこが作成したのでしょうか。

 「それは政府提出だから。内閣から。内調でしょう」

- PTに対する説明役は内調のスタッフ?

 「そうです。10回くらいと思います」

- その時に警察庁出身で内調トップの北村滋さん(内閣情報官)はいましたか。

 「いましたよ」

- 説明役だった?

 「そうでしょう」

- 秘密保護法を中心的に担ったのは内調の中の警察庁組と言われています。中谷さんもそういう認識ですか。

 「そうです。やはり(情報は)警察が握るんだという考えもあって。本当にそれで大丈夫なのかという意識はあったね、最初は」

- 警察が法成立の推進力になってることに違和感があった?

 「日本版NSCで各省庁の情報を活用する際、(警察庁にそれらの情報を)吸い上げられて本当に大丈夫かな、という意識はありましたけどね」

- 警察官僚が情報を牛耳るのではないか、という懸念ですか?

 「そうじゃなくて、NSCとして判断する際に、情報コミュニティーから情報が本当にどんどん(NSCに)出て来るのかな、と。ただ彼ら(警察官僚)も法 案を通さなきゃいけないんで、もう徹夜徹夜の連続で血眼でした。修正協議でどんどん修正点が出てきて、非常にバタバタしてました」

- 警察が優越するのではないかという中谷さんの不安は解消されたのでしょうか?

 「まあ、そうですよね。やっぱり作っとかないといけないことなんで、形にしなきゃいけないという思いでやりました」

- この法は、既に秘密保持の法規定を持つ防衛省にはメリットがなく、警察の公安部門が力を増すように思えます。

 「単に警察が(情報を)独占するというより、各省庁が入った組織もでき、外部の識者もその報告を聞くことになりました。そういう面では情報の流れというのは良くなると思います」



【国会答弁 将来も守れるか】

- 法律は、制定者の考え方や約束が将来も担保されるものでしょうか。制定者の考えを超えて運用されたり解釈されたりする例は、たくさんの実例がありま す。1999年制定の国旗国歌法は当時の小渕恵三首相が国会で「強制しない」と何度も明言しています。日の丸などへの賛否は別にして、首相の約束が守られ ていないと思いませんか。

 「その時の政府が答えたことが残っていますから。法律に基づく運用とか考え方は、残ると思いますよ」

- その関連で。中谷さんが防衛庁長官だった2002年、陸海空の調査隊を改編し、各自衛隊に情報保全隊をつくろうとしていました。「情報収集は民間人も 対象になるのか」という国会質問に対し、中谷さんは「情報漏えい防止の一環としてつくる。あらかじめ防衛秘密を取り扱う者として指定をした関係者のみに (調査対象を)限定する」と答えていました。

 「そうでしょうね」

- ところが07年、国会答弁をほごにする事実が明らかになっています。陸自情報保全隊(03年改編)が、自衛隊のイラク派遣に反対する市民集会やジャーナリストや文化人の動向など一般市民も情報収集の対象にしていました。

 「一般的な情報収集ではないですか? 情報収集としては許される範囲だと思います」

- 情報保全隊は、集会で参加者の写真を撮るなどしていました。

 「反対してる人の意見も傾聴に値するものもたくさんありますからね」

- 当初の国会答弁と運用が変わったということじゃないですか。

 「そうは思いませんね」

- 国会答弁で言ったことは何の約束にもならないということですか。秘密保護法についてもそれを懸念しています。国会答弁の内容が後に拡大されたり、違う解釈がされたり。

 「(問題の情報収集は)通常の業務で許されると思いますね」

- この問題では調査された側の市民が慰謝料を求めて提訴し、12年3月に仙台地裁で判決が出ています。人格権侵害に当たるとして国は敗訴しました。

 「それなりの正当性は(国も訴訟で)主張してると思いますね」

- 国会答弁と違う内容の仕事が行われたわけです。答弁内容が担保されていません。

 「そうでしょうかね。本来業務は答弁した通りなんですけど、開かれた場所で話された内容を集める。(市民からの)情報収集も許されると思います」

- 許されると思っているのに、当初は「調査対象は自衛隊関係者のみに限定」と答えたんですか。秘密保護法に関する答弁もどこまで担保されるのか。だから こういう曖昧な法律はまずい、と多くの法学者や弁護士たちが懸念しています。秘密保護の仕組みは必要だという人でも、この法律はまずいでしょ、と言ってい ます。

 「(市民対象の情報収集は防衛省側が)知ってどうかしたという話じゃないんでしょ? こんな話がありましたという話でしょ?」

- 市民の動向を、反自衛隊活動と分類しています。

 「分類の仕方は知りません。チェックというか、そういう方々の意見を聞いて、自分の考え方とかの参考にしますけどね」

- 監視していたんです。

 「そこまでやってないと思いますけど…」

- やっていたと、訴訟で明らかになりました。

 「03年に調査隊を廃止し、情報保全隊をつくりました。組織が変わって、多少任務は広がっている部分がある。もともと『調査隊』ですから、情報を調べる任務はあったと思うんです。それに『保全』の任務が入ってきた。そういうことだと思いますけどね」



【丁寧な政治 できているか】

- 法の成立後、安倍首相は会見で「反省をしている」と述べました。一国の総理が一本の法律を通した直後に反省する。極めて異例と思いませんか。

 「この法の真意、内容を十分に伝えることができなくて、懸念とか国会の運びとかに、国民のご意見があると。そういう意味で言われたと思います。でも私は 現場として、衆議院は国会の論戦の中で非常に濃密な内容で答弁もし、修正も行った。衆議院段階で43時間、しっかり議論ができたと思います」

- 憲法学者、弁護士、作家、俳優、いろんな人たちが反対しました。どうして反対したとお考えですか。

 「非常に拡張された(条文の)解釈によって、とんでもないことになるということだと思いますが、思想信条は自由ですから。自由がなくなるとか、暗い世の中になるとか思っておられると」

- 日弁連も何度も反対声明を出しています。それも思い込みだと?

 「ま、思い込みというか、そういう論者としてやってると思います。臆測とか推測でそう思われるのは自由なんですが、そうならないようにします」

- 法成立後の世論調査では国民の結構な割合が懸念を示しています。

 「法律の真意が伝わっていないんです。伝える側がしっかり伝えてほしいと思う」

- おかしいことを指摘し続けることは健全だと思いませんか。

 「そうですけど、懸念がないように精いっぱい努力をしてきた。そういうことも伝えてほしいと思います」

- 中谷さんはこれまで、憲法については無理のある解釈改憲ではなく、手続きを踏んで改正すべきだとし、安倍さんらへの批判も口にしておられた。「政治は丁寧にしなければならない。私は党内で歯止め役になる」とも言っていた。

 「憲法については実際に改憲案を出し、どうでしょうかと国民の意見を聞きながらやってます。きちんと手続きを踏んでやっているつもりです。今回の秘密法も、自分の信条に反してやってるつもりはないです。歯止めというか、必要性があるからやってるという認識です」


(おわり)

秘密保護法インタビュー (2)

 中谷元氏へのインタビュー.2013年12月にブログ「浦戸湾」
http://blog.livedoor.jp/uradowan/archives/2013-12-25.html
に掲載した記事を,こちらに転載しています.

2013年12月25日
秘密保護法インタビュー (2)
 中谷元氏へのインタビュー.高知新聞の記事「問う,特定秘密保護法案」を転載しています.記事の日付けは2013年12月21日と22日.いずれも朝刊です.

 なお高知新聞は,中谷氏の地元である高知県の,代表的な地方紙です.


(以下転載)
【適性評価は誰が? 「民間人 警察に照会も」】

- この法の下では、特定秘密を扱う人を決める際、事前に適性評価(右に条文)を行うことになっています。特定秘密は防衛関連産業など民間事業者も扱う。民間事業者に対する適性評価は誰がやるのでしょうか。例えば、外務省の取引先なら外務省の職員が民間人を調査するのでしょうか。
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 「その企業が指定するんじゃないかな。まず、本人の同意を前提で資料を出してもらいますよね。それに基づき調査します」

- 法の規定では、行政機関の長が適性評価をするとなってます。でも現実、大臣らが一人一人を調査できませんよね? 誰が現場で調査や評価をするんでしょう?

 「行政の中の人でしょうね。行政機関の長の責任において、担当職員がやる」

- 外務省職員が、民間人の借金の有無を調べる? 飲酒状況も外務省職員が調べる?

 「調べるんでしょうね。(特定秘密を)漏らされたら困りますからね」

- 適性評価を担当する現場の実務者は誰なのか。筆頭理事としてやって来られた中で、そういう議論は全くされていないのですか。

 「省の責任において(調査を)委託するわけですから、その省が責任を持って調べるということです」

- 外務省が警察庁長官や県警本部長に依頼して調べるというようなことは、議論されてないんでしょうか。

 「関係機関に照会することになっています(12条4)」

- 関係機関は警察組織も含んでいるんでしょうか?

 「そうです。警察署みたいな出先にね。条文に書いてますよね。公務所に問い合わせができる、と。それは当然だと思います。(特定秘密を)漏らすような人には仕事を頼めませんからね」

- 民間人の適性評価を、現実には警察の情報に基づいてやる場合もあると?

 「警察に照会することもある。必要な範囲で。本人の同意を前提に」

- 本人の同意について内閣官房作成の逐条解説には、こう書かれています。「評価対象者が把握されることを想定していないプライバシーに深くかかわる個人情報についても、実施権者が取得する必要がある制度である」と。こんなことまで調べられるとは思わなかった、という部分まで調べられる可能性が否定できません。

 「それは必要上、調べるでしょう。調べないと、(特定秘密の扱いを)任せられない」

- 12条に列挙してある調査事項の7項目を超えて、調べる必要があると?

 「まあ、7項目を聞くわけですよ。それに対して必要な範囲で調査はします」

- 12条には「評価対象者の知人その他の関係者に質問」と明記されています。本人同意があっても、その人と交友関係にある人は、同意なく調査されるわけですね。

 「そうですね」

- 全く自分の知らないところで、同意したこともないのに、一市民が調査対象になりますね?

 「まず、質問はします。行政職員が。警察が調べるかどうか知りませんけど」

- 適性評価の対象者としてAさんを調べるとしましょう。Aさんに親しい友人がいる。その友人が何かの団体に属していたとして、そういうことも調べられることがあるわけですね?

 「かつて防衛庁の委託した中に特定団体の人が含まれていた事件がありました。(特定秘密の扱いを民間に)お願いする以上はそういう要素がないようにすると思いますけど。私もいろんな友だちがいます。(適性評価は)総合的に、この人は大丈夫かどうか判断するんでしょう。大事な仕事を託すわけですから」

- つまり、第三者がいつの間にか属性などを調べられる。それで言えば、思想信条の自由を保障し、それらによる差別を禁じた憲法よりも、法律の運用が上位に来る危険性はありませんか。

 「けど、車の運転と同じように、ある程度の技能とかがないと、危なっかしくて運転させられませんよね」

- 思想信条で運転させない、という考え方は聞いたことがありません。

 「能力です。資質。それを見分けないと(特定秘密が)漏れてしまいますから」




【法の必要性 「米国以外から要請なし」】

- 中谷さんは秘密保護法成立後の11日、日本外国特派員協会で会見し、法が必要な理由として、外国から機密情報をもらうためだ、との趣旨を最初に語っています。そして、アルジェリアの人質事件(今年1月)を例示している。あの時、この法制度があれば、邦人救助に必要な情報が得られたんでしょうか。

 「そう思います。テロ情報、フランス軍の機密も必要だし、イギリスの情報も必要。そういう情報がなかなか得られなかったのは、日本に情報を提供して本当に大丈夫か、と(外国は)思っているからです」

- 日本の法整備が不十分だから情報を渡せない、と実際にフランスから指摘があったんでしょうか。

 「それは聞いてません。けど、現実になかなか情報が集まらなくて」

- それは法制度がない、という問題だったんですか。

 「日本に情報を渡しても安全ですよ、という形がないからです」

- 事件前、フランス軍にテロ関連の情報を教えてくれと、日本側から働きかけたことはあったのでしょうか。

 「あんまり、なかったんじゃないかと」

- 法制度がないから情報提供できないと、米国以外の国から言われたことはあるのでしょうか。

 「ないですね」

- ところで防衛省には現在、「防衛秘密」があります。秘密保護のルールが十分できている。

 「まあそうです」

- とすると、新法を作る必要性はどこにあるんでしょう?

 「(各省庁の情報管理が)バラバラでいいんでしょうか。今でも非常にレベルの高い秘密がありますが、各省運用がまちまち。ルールが細かく決まっていません」

- 閣議決定や訓令達などで省内ルールを変えれば、新法を作らなくても、ルール統一ができたのではないでしょうか。

 「法律でしっかり、規則を作った方がいいと思いますよ。指定の基準とか、在り方とか。(国会審議の中で)官僚が恣意(しい)的に指定をしたり運用したりするのではないか、という懸念が出てきた。(今回の法律では)第三者組織がそれをきちんと監督、指導するということです」

- 官僚が官僚をチェックするわけですよね? きちんと機能しますか。

 「各党で協議して、そのような(第三者)機関を設置すると決めて、政府も審議の中で作ると明言したわけだから、それで良しと。まあ一応、形は整ったと思いますよ」

- (国会に置く方針の諮問機関について)来月外国に視察に行くそうですが、法案を作る前に行くべきじゃないですか。

 「まあ、そういうものを作ることになったんで。私は真摯(しんし)に(審議を)やったつもり。これほど修正がたくさんなされたというのは成果だと思う。与党筆頭理事としてこの法案を良いものにして、国民の納得が得られるようにという思いでやってきた。要は、成立をさせたかったということですよ」




【国会との関係 「行政のチェックは総理が」】

- 立法と行政の関係についてお聞きします。特定秘密の国会などへの提供は、10条に規定がある。当初の法案は行政機関の長の判断で国会に提供「できる」でしたが、修正協議の結果、「するものとする」となりました。国会への提供は、これで義務規定になったと言えますか。行政機関に裁量の余地を与えないなら、「しなければならない」という条文ではないですか。

 「同じ意味だと思います。『するものとする』でいいじゃないですか。あんまり、こだわらなかったですね」

- 普通、「するものとする」という表現は最大限の努力を払う、という程度の義務規定だと思いますが。

 「まあそうです。行政は国民の生命と国の安全を守るという仕事を責任持ってやってるわけだから、国会によって秘密が漏えいした時に、それ(行政の仕事)ができなくなることは、行政権を侵すことになるんじゃないでしょうか」

- 条文には「わが国の安全保障に著しい支障を及ぼす」と行政が判断した場合は、国会にも提供しない、となっています。

 「そうですね」

- 行政に対して、国権の最高機関である国会が及ばない部分ができてしまう。

 「まあ、各省の大臣は過半数を国会議員、総理大臣も国会議員から選んでいるので、国会の意思というものは、行政に働くと思いますよ。すべてがすべて、公務員がやっているわけではないから、行政は」

- 大臣は公務員だと思います。

 「まあ、そうですね」

- この法では、特定秘密を得た国会議員がそれを漏らした場合なども処罰対象になりかねません。そうすると、院内での発言については、院外で責任を問われないという憲法51条と矛盾しませんか。

 「そこが課題。憲法の規定をどう読むかということです」

- 秘密保護法の下では、行政に対する国会の監視機能がなくなる、と危惧する方がいっぱいいます。内閣・行政が国民に背くような不正をしていた場合、その情報を知ることができないわけですから。内閣や行政の責任を問うことが事実上できなくなります。

 「衆院が内閣不信任決議案を出したりよね。そういう権利はあると思いますけどね」

- 情報を知らない以上、不信任決議案も何もできないのでは。

 「日本は議院内閣制です。院の代表が総理大臣になって行政を監視しながら行政を運営しているわけだから、その辺はチェックできると思います」

- 中谷さんは今、与党です。仮に野党の立場になった場合、その政権が自民党には何も情報を出しませんよ、となったら? そういう世界はやっぱりまずいと思いませんか。野党として政権をチェックできますか。

 「国にとって大事な情報は、外に漏れては行政が困るんです。じゃあ、野党にそういう情報提供して、本当に漏れないという確証があるか。野党は今の政権を批判するわけだから。野党の方に情報が行って、漏れない確証があるのか」

- 大切な情報はあると思います。でも、行政に都合の悪い情報も特定秘密になる可能性があるのでは?

 「法に基づいて指定するし、是非を判断する機関ができるわけだから。そこで監視、監督はされると思いますよ」


(つづく)

秘密保護法インタビュー (1)

 とーとつですが,

 「特定秘密保護法」について,2年ほど前にブログ「浦戸湾」
http://blog.livedoor.jp/uradowan/archives/51834446.html
に掲載した記事です.中谷さんの発言です.

        *     *     *
2013年12月24日
秘密保護法インタビュー (1)
 高知新聞が秘密保護法について中谷元氏にインタビューしている.その記事を紹介します.高知新聞は,中谷氏の地元である高知県の代表的な地方新聞です.


問う,特定秘密保護法 インタビュー
⑮自民党衆院議員・中谷元氏
13年12月21日付  高知新聞 朝刊


(以下転載)
【冒頭、報道批判から始まった…】
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 特定秘密保護法が参院本会議で可決・成立してから、2週間になる。法曹界や言論界、学者らの専門家のみならず、多くの市民の反対を押し切った側に、自民党衆院議員の中谷元氏(高知2区、元防衛庁長官)はいた。強い懸念が払しょくされないまま、公布された同法。衆院国家安全保障特別委員会で与党筆頭理事を務める中谷氏は、法成立後の今、あまたの疑問や懸念にどう答えるのか。

 高知新聞は中谷氏にインタビューを申し込み、14日午後、高知新聞社で行った。

  ■     ■     ■  

 冒頭、中谷氏は「秘密保護法案に関する高知新聞の報道はフェアでしょうか」などとして、自身の所見をまとめた約2千字のペーパーを取り出し、読み上げた。

秘密法概要
 「報道とはニュースを取材し、記事を作成して広く公表・伝達する行為であって、報道の自由や知る権利に支えられている反面、客観報道の原則を守らねばなりません。県民には、なぜ秘密法案が必要か知る権利があります。本当に秘密保護法は、天下の悪法でしょうか。高知新聞は、国家にとって秘密保持が必要かどうか、必要と言うなら、秘密が漏れないようにするにはどうしたらいいか、それをはっきり報道すべきです。なぜ、この法案が必要なのか、その面の報道がないのでしょうか」

 「『法案が通ったら戦前に戻る』『自由が失われる』という解説を書いていました。本当にそうでしょうか。反対するために誇張、偏った見方をした弁護士や反対者の声、解説ばかりを載せるではなく、きちんと取材をして事実を報道することが報道の原則です。今回の報道は『真実を伝える』ことになったのでしょうか。最初に反対ありき。法案はけしからん、廃案に持っていけ。反対の集会ばかり。異常なまでの反対キャンペーンで読者を誘導したという意識はありますか」

 高知新聞の山岡正史社会部長はこう応じた。

 「ご指摘は拝聴しました。一つだけ言っておきますと、中谷さんもご承知のように、高知新聞は(法案が衆院通過後の11月27日朝刊1面で)編集局長の特別評論『国民主権脅かす法』を出し、(法成立を報じる7日朝刊では)社説を1面に載せました。この法に対して私たちが疑問や懸念を持っているのは確かです。私たちの考え方に基づいて、きちんと紙面で伝えていきたいと。そういう姿勢でやってきました。それがどうなのかは、読者の判断に委ねたいと思います」

 この後、インタビューは数分間の休憩を挟み、約4時間半にわたって続いた。

 (詳報の採録に際しては、話の順序や言葉遣いなどに関し、読みやすいように編集を施しています)




【一般人は対象か 「処罰 最後は司法判断」】

- 秘密保護法について、政府与党は「一般の人は処罰されない」と言っています。根拠はどこにありますか。

 「罰則規定が限定されています。一般市民やマスコミの取材は、スパイ活動とかの目的じゃなかったら、罰せられません」
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- 24条(右に条文)は特定秘密を取得しようとする行為を罰する条文です。その中に「自己の不正の利益」だったら罰する、とある。これはどういう意味ですか。例えば原発反対を訴える市民も、時の政府から見たら「正しくない」となりかねません。

 「(自己の不正の利益とは)良くない利益ですよ、不正の。(修正協議の中で日本維新の会から)スパイ行為は手段(の是非)を別にして全部処罰せよときた。それは恐ろしい話になるんで、目的を限定すればいい、と」

- 公務員などが特定秘密を漏えいした時の罰則規定は23条です。23条の関連で、一般人が共犯認定されることはあり得ますね?

 「スパイ活動やテロ活動を目的にしていないと、ダメ(犯罪とされない)ですよ」

- いや、目的を定めたのは24条だけで、23条はスパイ活動など行為の目的を定めていない。教唆、煽動、共謀も罰するとした25条は23条にも及びます。ですから、特定秘密を管理する公務員らに対し、一般人が「情報を教えて」と迫った場合は、教唆で犯罪になりかねません。

 「(特定秘密の管理者は)法律を守らなきゃ、という建前で管理してるわけ。(一般人が)それを知りながら犯罪を実行させる目的を持って、その人をしきりに誘ったり、勧めたりすることは罰せられます」

- 教唆は一般人でも該当すると?

 「そうそう」

- 情報を漏らせ、漏らせと言ったら、犯罪ということですよね?

 「そうですね」

- 公務員が「漏らせと誘われたけど、俺は応じない」という場合も、漏らせと言った方が処罰されると?

 「(公務員が)漏らさなかったら犯罪にならないわけですよ」

- いや、未遂も罰する、と定めています。

 「けど(誘う方は)目的を持ってるわけですよ。スパイ的な」

- 24条と違って、23条は目的も方法も限定されてないんですよ。

 「一般の人はそれが特定秘密かどうか知らないんですよ」

- だから処罰されないという説明だと思いますが、そこに危ういところがあって。内閣官房が作成した逐条解説によると、「(ある情報が特定秘密であると)知る必要はない」とあります。漠然と、何らかの秘密じゃないのかなと思った程度で、その人は特定秘密だと知っている、と解釈されます。

 「そういう行為(教唆)は犯罪を実行する決意を生じさせるに足りるかどうか(によって処罰対象か否かが決まる)ですよね」

- でも、内閣官房の解説では、特定秘密の管理者が漏えいを決意しなくてもいい、と。

 「決意しなくても? けど、決意しなきゃ犯罪にならないよ」

- 逐条解説には目を通されましたか。日付は2012年です。

 「もう去年、こんなのできてたの?」

- そうです。

 「オープンになってんの?」

- 今年12月5日、オープンにされてます。成立の前日です。

 「なんで去年、(逐条解説が)できているんでしょうね」

- 準備していたんでしょうね。話を戻します。教唆については犯罪を決意しなくても、唆した側は教唆に「なる」と逐条解説には書いてあります。

 「独立教唆というのは『犯罪を実行させる目的をもって人に対してその行為を実行する決意を生じさせるに足りる慫慂(しょうよう)行為をすること』を言います。単に『特定秘密を教えてほしい』だけでは、犯罪行為を実行する決意を生じさせるに足りるものとは言えない、ということです」

- それ(中谷氏が読み上げたA4判のペーパー)は、国会答弁ですか?

 「(独立教唆に関する官僚作成の答弁用紙を見せて)これが政府の答え。キーワードは慫慂行為。定義は『そうするように誘って、しきりに勧めること』。広辞苑ですけど」

- 政府答弁には「しきりに」という言葉はありません。

 「うん」

- それも含めて、散々言われている話ですが、この法はいろんな部分で解釈の範囲が広い。曖昧な部分が残されたままです。

 「最終的には司法の判断によりますね」

- 刑事罰ですから司法判断ということは、逮捕され、起訴され、といった刑事手続きに一般市民が入ってしまう。その可能性があると? 逮捕されなければ(目的がスパイ行為かどうかなど)分からない、その最終判断は裁判で、と?

 「はい」

(つづく)

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メモ

 ◆「特別秘密の保護に関する法律案」の逐条解説

 秘密保護法制定のため、内閣官房が作成した条文ごとの解説。全国市民オンブズマン連絡会議によると、2012年4月に解説案が作られ、同年11月に完成した。その存在を知った弁護士らが情報開示請求したが、目次すら黒塗りだった。

 非開示について、北村滋・内閣情報官は「国民の間に未成熟な情報に基づく混乱を不当に生じさせ、率直な意見交換、意思決定の中立性が損なわれる恐れがある」と説明。公開すれば、「法案化作業や内閣情報調査室の事務に支障を及ぼす」とした。

 逐条解説は結局、秘密保護法成立の前日の12月5日、福島瑞穂参院議員の要求でようやく開示された。「特別秘密(現在の呼び名は『特定秘密』)」「テロリズム」「教唆」などの用語の定義、処罰対象者、対象行為などの定義や例が詳細に説明されている。


 ◆独立教唆

 犯罪行為をするよう、他人を誘うこと。実行を決意するに足りる行為であれば、実際に犯罪行為を実行したことを必要とせず、実行する決意を抱かなくても成立する。刑法61条は独立教唆を認めておらず、被教唆者が犯罪を決意・実行した場合のみ、処罰対象となる。

 これに対し、特定秘密保護法の逐条解説によれば、同法が規定する「教唆」は、日米相互防衛援助協定等(MDA)に伴う秘密保護法などが規定する「教唆」と同様、独立教唆のこと、と定義した。

 逐条解説は、独立教唆について以下のように説明している。すなわち、人に漏えい行為等を実行する決意を生じさせるに適した行為があれば、それだけで独立犯として成立。被教唆者による漏えい等の実行を要しないだけでなく、実行する決意を抱くに至ったことも要しない。
(転載おわり)

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