TPPと非関税障壁
甘利明さんは今はTPP担当大臣とかになっていて,TPPの推進役をやっている.野党だったときには厳しい条件を出して,「この6項目が確認できねばダメだ」と事実上の反対を旗振りしていたけれど,与党になると推進.まこと立場によって人は変われるものだと,私も感心している.
死守すべき「聖域」農産物が5項目ほどになった,と最近の報道は伝えている.もはや自民党の議員はTPP反対ではない.予定通りの三文芝居.農水族の議員が党内で大ゲンカをしたのも,「やるだけはやったんですけどネ」という言い訳づくり,アリバイ工作でしょう.選挙で投票する側としては,そういう小細工をきっちり見抜く必要がある.
TPPの原則は関税撤廃.一般論として,このテの約束ないし制度には,ポジティブとネガティブがある.ポジティブは「関税あり」が原則で,無関税にする項目を決める.ネガティブはその逆.TPPは後者である.つまり「関税なし」が原則で,自由化しないものを協議で決める.言及されてないものは自動的に無関税となる.
そういう制度で,わずか5項目にしか言及しないというのだから,日本農業の未来はしこたま暗い.これでまだ自民党に投票しようなどという農家がいたら,まあ自業自得としか言いようがない.
* * *
農産物の関税ばかりが話題になるけれど,じつはTPPは「非関税障壁」の撤廃をも目指している.たとえば「食の安全性」の問題.日本の食品安全基準は,分野によっては米国より厳しい.この厳しい基準が「非関税障壁」だとして,変更を迫られる可能性がある.日本人が国会で決めた基準よりも,米国の甘い基準のほうが優先される.日本国としての主権を主張できない.
こういう「主権侵害」に等しいことを可能にするのが,ISD条項である.ISDとは投資家(Investor)と国(State)との間のトラブル(Dispute)という意味である.企業は,輸出相手の国を,この条項に従って訴えることができる.たとえば米国の企業が「食品の安全基準が厳しすぎる」と日本政府を訴える.この裁判で負けたら,日本政府は罰金を払わされたうえ,安全基準の緩和を強制される.今までISD条項による訴えでは,米企業の勝率はほぼ100%というから,こういう裁判で勝ち目はないも同然.
具体的に考えてみよう.
牛肉を食べてかかるBSEという病気がある.人間の脳がスポンジ状に変質してしまう,恐ろしい病気で,治療法はない.この病気を警戒して,日本では牛は全頭検査をする.米国では牛の0.1%しか検査をしていない.また日本では生後20か月未満の牛しか食肉にできなかったが,TPPによるトラブルを予想してか,最近この月齢上限を30か月に引き上げたらしい.食品の安全を確保するため,科学的根拠も含め各国独自の判断があるのは当然で,それを外国の私企業からクレームをつけられて変更させられる.国としての主権にもかかわるし,国民の食の安全にもかかわる,大きな問題である.
同質の問題としては自動車等の安全基準の問題がある.現行では日本のほうが米国より厳しい基準を採用しているが,その基準の緩和を求められる可能性がある.自動車の排ガス規制の問題も同じこと.
また軽自動車の税制優遇は日本独特の制度であるが,それにクレームがつく可能性もある.つまり軽自動車という車種をなくすように要求されるかもしれない.日本と米国では国土の広さが違う.軽自動車は税金も安く,空気を汚す程度も少ない,日本の風土に合った乗物である.それはダメだ! と外国企業が言ったとして,そういう妄言に従う必要はない筈だ.ところがTPPに参加すると,日本政府は外国企業に従わざるをえなくなる.
* * *
まだまだある.日本には「共済」という制度がある.組合や団体などで作っている.参加者はカネを出し合って,共に助け合おうという仕組みだ.こういう仕事は米国では銀行や保険会社が金儲けのためやっている.日本は相互扶助.米国は金儲け.目的がまるで違うが,米国企業からすると,日本の共催や互助会の仕組みは,国が援助して一般銀行などの参入を妨げている「非関税障壁」に見える.共に助け合おうという日本的美徳は,米国の金の亡者の目には「自由競争の妨げ」にしか見えない.そこでISD条項が登場する.
この互助の精神の最たるものが日本の医療制度,つまり「国民皆保険」の制度である.この制度の有難味は,だれか家族が大病を患ったとき実感される.ゆりかごから墓場まで国がすべて医療費を支払ってくれるという英国のような高貴な制度ではない.日本は貧乏であったから,貧乏なりに知恵をしぼって,この互助の仕組みを作り維持して来た.国の出費が少なく,国民が受ける恩恵が大きい,世界でも類を見ない優れた賢い制度である.もちろん米国の金の亡者には,この制度も「自由競争の妨げ」としか映らない.国民皆保険の破壊は,日本の医療制度を,世界で最も粗末な医療制度しかもたない国,つまり米国のように変えてしまうことになる.これは日本国民が絶対に選んではいけない道である.
まだある.まだまだある.調べれば調べるほど,TPPへの参加によって国民生活が受けるマイナスの影響が見えて来る.TPPに反対だ,とつい先日まで自民党は言っていた.正論である.その正論を捨てて今やTPP参加という売国政策にまい進している.国民の目線が消えて,企業や金持ちのためだけの政策になった.もちろん庶民の生活や苦しみは,安倍晋三お坊ちゃん氏には理解不能でしょう.
こういう政府にゴーサインを与えてはならない.その意思表示を国民ははっきりと,間近に迫る参院選で示さねばならない.
死守すべき「聖域」農産物が5項目ほどになった,と最近の報道は伝えている.もはや自民党の議員はTPP反対ではない.予定通りの三文芝居.農水族の議員が党内で大ゲンカをしたのも,「やるだけはやったんですけどネ」という言い訳づくり,アリバイ工作でしょう.選挙で投票する側としては,そういう小細工をきっちり見抜く必要がある.
TPPの原則は関税撤廃.一般論として,このテの約束ないし制度には,ポジティブとネガティブがある.ポジティブは「関税あり」が原則で,無関税にする項目を決める.ネガティブはその逆.TPPは後者である.つまり「関税なし」が原則で,自由化しないものを協議で決める.言及されてないものは自動的に無関税となる.
そういう制度で,わずか5項目にしか言及しないというのだから,日本農業の未来はしこたま暗い.これでまだ自民党に投票しようなどという農家がいたら,まあ自業自得としか言いようがない.
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農産物の関税ばかりが話題になるけれど,じつはTPPは「非関税障壁」の撤廃をも目指している.たとえば「食の安全性」の問題.日本の食品安全基準は,分野によっては米国より厳しい.この厳しい基準が「非関税障壁」だとして,変更を迫られる可能性がある.日本人が国会で決めた基準よりも,米国の甘い基準のほうが優先される.日本国としての主権を主張できない.
こういう「主権侵害」に等しいことを可能にするのが,ISD条項である.ISDとは投資家(Investor)と国(State)との間のトラブル(Dispute)という意味である.企業は,輸出相手の国を,この条項に従って訴えることができる.たとえば米国の企業が「食品の安全基準が厳しすぎる」と日本政府を訴える.この裁判で負けたら,日本政府は罰金を払わされたうえ,安全基準の緩和を強制される.今までISD条項による訴えでは,米企業の勝率はほぼ100%というから,こういう裁判で勝ち目はないも同然.
具体的に考えてみよう.
牛肉を食べてかかるBSEという病気がある.人間の脳がスポンジ状に変質してしまう,恐ろしい病気で,治療法はない.この病気を警戒して,日本では牛は全頭検査をする.米国では牛の0.1%しか検査をしていない.また日本では生後20か月未満の牛しか食肉にできなかったが,TPPによるトラブルを予想してか,最近この月齢上限を30か月に引き上げたらしい.食品の安全を確保するため,科学的根拠も含め各国独自の判断があるのは当然で,それを外国の私企業からクレームをつけられて変更させられる.国としての主権にもかかわるし,国民の食の安全にもかかわる,大きな問題である.
同質の問題としては自動車等の安全基準の問題がある.現行では日本のほうが米国より厳しい基準を採用しているが,その基準の緩和を求められる可能性がある.自動車の排ガス規制の問題も同じこと.
また軽自動車の税制優遇は日本独特の制度であるが,それにクレームがつく可能性もある.つまり軽自動車という車種をなくすように要求されるかもしれない.日本と米国では国土の広さが違う.軽自動車は税金も安く,空気を汚す程度も少ない,日本の風土に合った乗物である.それはダメだ! と外国企業が言ったとして,そういう妄言に従う必要はない筈だ.ところがTPPに参加すると,日本政府は外国企業に従わざるをえなくなる.
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まだまだある.日本には「共済」という制度がある.組合や団体などで作っている.参加者はカネを出し合って,共に助け合おうという仕組みだ.こういう仕事は米国では銀行や保険会社が金儲けのためやっている.日本は相互扶助.米国は金儲け.目的がまるで違うが,米国企業からすると,日本の共催や互助会の仕組みは,国が援助して一般銀行などの参入を妨げている「非関税障壁」に見える.共に助け合おうという日本的美徳は,米国の金の亡者の目には「自由競争の妨げ」にしか見えない.そこでISD条項が登場する.
この互助の精神の最たるものが日本の医療制度,つまり「国民皆保険」の制度である.この制度の有難味は,だれか家族が大病を患ったとき実感される.ゆりかごから墓場まで国がすべて医療費を支払ってくれるという英国のような高貴な制度ではない.日本は貧乏であったから,貧乏なりに知恵をしぼって,この互助の仕組みを作り維持して来た.国の出費が少なく,国民が受ける恩恵が大きい,世界でも類を見ない優れた賢い制度である.もちろん米国の金の亡者には,この制度も「自由競争の妨げ」としか映らない.国民皆保険の破壊は,日本の医療制度を,世界で最も粗末な医療制度しかもたない国,つまり米国のように変えてしまうことになる.これは日本国民が絶対に選んではいけない道である.
まだある.まだまだある.調べれば調べるほど,TPPへの参加によって国民生活が受けるマイナスの影響が見えて来る.TPPに反対だ,とつい先日まで自民党は言っていた.正論である.その正論を捨てて今やTPP参加という売国政策にまい進している.国民の目線が消えて,企業や金持ちのためだけの政策になった.もちろん庶民の生活や苦しみは,安倍晋三お坊ちゃん氏には理解不能でしょう.
こういう政府にゴーサインを与えてはならない.その意思表示を国民ははっきりと,間近に迫る参院選で示さねばならない.
2013-06-21 18:36
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shira様,nice!をありがとうございます.
by Ladybird (2013-06-22 22:09)
TPPについて,自民党の公約違反は,ひどいものです.ここまでされて黙っている日本国民って,何なのだ?
「晴耕雨読」の記事
http://sun.ap.teacup.com/souun/11268.html
に,次の記述があります.
(以下引用)
自民党は、「農産物の重要5品目について聖域を確保する」という文言を公約から外し、総合政策集「Jファイル」に移動。
しかもJファイルについて高市早苗氏は「公約とは分けて考えてほしい」とちゃんと発言している(日本農業新聞)。
明らかに、重要品目守る気がないのが明確に!。
自民党は、石破幹事長も度々、「重要品目は守る。公約に違反したらどうなるか、私たちはわかっている」と言いながら、「重要品目の聖域は必ず守る」というフレーズを公約から外した。
聖域とは何かも明確にしないまま、こっそり公約からは外してきた。
皆さんひどい政党ですよ。
TPPに関する記載は、「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることで、国益にかなう最善の道を追求」だと。
こんな抽象的な文言は公約とは言えない。
(引用おわり)
by Ladybird (2013-06-22 22:16)
ISD条項背筋寒くなってきました。
これぞ最高の省エネです。
愛国心いうなら国歌強制するより外国の企業の都合で日本がえらいことにならないように守る方がずっと大事なのに。
なんか保守するもの間違えてるような。
by ayu15 (2013-06-25 12:30)
ayu様,nice!とコメありがとうございます.
ISD条項の怖さを日本国民はもっと認識しないといけませんね.なぜマスコミは黙っているんでしょう.
「愛国心」を言う人の多くは,じつは米国のロボットかもしれません.要注意.
by Ladybird (2013-06-26 03:44)