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ミツバチ大量失踪

 NHKの番組「いのちドラマチック -ミツバチ 家畜化された昆虫- 」を見た.
 興味深い映像である.養蜂の現場.アーモンド農園に運ばれるミツバチ.人工授精によるハチの品種改良.

 この番組が扱っていたのは例の「ミツバチ大量失踪」の謎.このブログも以前「ミツバチ異変」というタイトルで少しだけ触れたことがある.
http://henachokosizenhogo.blog.so-net.ne.jp/archive/200904-1

 一般的に昆虫は減少しているのだ.ミツバチが減っているとしても,何の不思議もない.そういう趣旨のことを私は書いた.しかしNHKの番組は違う角度から問題を捉えていた.大量失踪の原因はどうやらミツバチの「家畜化」にある,というのが「NHK説」である.

 じつは,この問題はまだ結論の出ていない未解決の問題だと私は思っていた.だから,その問題を正面から扱う番組であれば,きっと様々な説を並べ検討するだろう.
 そのように予想し,その放映時間がわずか30分だと知って驚いた.そして私の予想はみごとにハズれた.答はもう出ているのだ.少なくともNHKは,その答が正しいと言っている.だから「NHK説」と呼ぶことにする.
 この説を証明?するために番組があげている根拠は1つだけである.精緻な方法で品種改良され,大量に供給・利用されているミツバチでは,大量失踪が深刻な問題になっている.しかし,そういう方法ではなくて,いわば「自然農法」のような方法でミツバチを育てている1人の養蜂家がいる.この人のミツバチたちは,大量失踪を起こしてないというのである.

 これは教育番組の手法である.おとなや先生にとって既知の事柄を,子供や学生に教えるときの手法である.誰も答を知らない問題を,いろいろな角度から検討しようとするときに採用すべき方法とは正反対.
 ドイツのことわざに「Einmal ist Keinmal」(1回は0回と同じ)というのがあるそうだ.自然農法の養蜂家を1人だけとりあげて,この人の蜂は大量失踪してないというだけで,失踪の原因が判ったなどということは,常識的にいってもありえない.だから,これは「科学」番組ではなくて教育番組,ないし洗脳番組である.こういう脈絡で「科学」を語ってはいけない.

 だから番組の最後のほうで福岡伸一さんが「右肩上がりだけではダメなんだ.生物は負けることによって進化してきたんだ」と言ったとき,「やっぱり」と実感した.この番組は「科学」というよりはカルトに似ている.
 余談ですが「負けることによって進化」というのは誤解を招く表現である.ちょっと考えればわかる通り,進化とは勝者の歴史なんです.進化は敗者からは何も学ばない.だから同じ失敗を何度でも繰り返す.勝ったものが遺伝子を残す.それが進化です.

 話をもとへ.
 で,実際のところNHK説はどの程度まで実証されているのだろうか.興味深い問題であるが,この番組は客観的な根拠を示さなかった.だからミツバチの「家畜化」がどこまで大量失踪の原因であるのか,本当のところは判らない.
 ただし,番組内での実証的証拠は貧弱であったが,直観的ないし理論的には説得力のある説である.このブログで書いてきた問題意識とも重なるところがある.というわけで次回は,「家畜化」について少し「考察」してみよう.

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コメント 4

shira

 某カルトの教典は、この世はすべて神の側と悪魔の側の二分法で整理されるという結論を導くことのスタートとして、あらゆる生き物はオスとメス、雄しべと雌しべから発生すると切り出しています。
 じゃあキノコやアメーバは生き物じゃないのかよと中学生だってツッコミが入れられそうですけど、こんなものにコロリといく大学生がいっぱいいたというのが事実です。
by shira (2010-05-20 22:28) 

Ladybird

 muzemistyさま,shiraさま,nice!をありがとうございます.

 shiraさま:
>あらゆる生き物はオスとメス、雄しべと雌しべから発生する
 なるほど,うまい所に目をつけましたね.多くの生物に「性」が存在するのはなぜか,「性」はなぜ多くの場合2つなのか.なぜ雌雄という「分業」があるのか.大きな問題です.
 もちろんアメーバには性はありません.ゾウリムシの一種では性がたくさんあるし,性が2つしかない種類でも雌雄の違いはありません.1つの体に雄と雌の両方を持っている生物はカタツムリをはじめたくさんいますね.

 仏教のアシュラは神々に楯つく乱暴者.ゾロアスター教のアシュラ(=アフラ)は最高神.同じ神様でも土地が違えばこれほど違うという「相対性」にも目をやって欲しいものです.
by Ladybird (2010-05-21 17:59) 

×第二迷信

「新化とは、変化」だとすると、
「いまのミツバチ」が絶滅して「別のミツバチ」が主流になることなんでしょうかね。

「家畜ミツバチ」が、「種」でなく「品種」だと思えば、
「絶滅」とは言わないんでしょうが。
いったい、世界中の「家畜ミツバチ」というのは、どこまでの遺伝子的広がりがあるんでしょう。

 宮崎の牛なども、
「優秀な種牛」が全国に子を広げてるとなると、
全国の「和牛」の「血統」がだんだん統一されてそうです。
(「口蹄疫」騒動で「大量処分」されたあと、特定の「凍結受精卵」子牛があっという間にシェアを増やしたり・・・?)
by ×第二迷信 (2010-05-24 22:18) 

Ladybird

×第二迷信さん,こんばんは.

>いったい、世界中の「家畜ミツバチ」というのは、どこまでの遺伝子的広がりがあるんでしょう。
 「世界中の」かどうかは不明ですが,米国のアーモンド農園で受粉に使われている多量のミツバチは,かなり均一性の高いものかもしれません.

>「口蹄疫」騒動
 そうですね.牛も羊も家畜なので,ミツバチが「家畜化」されているのと同質の問題を指摘することができます.家畜化と病原体との関係をもっと研究しなければ,今回と同様の悲劇は今後も世界中で繰り返されるでしょうね.
by Ladybird (2010-05-24 23:25) 

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